小さいけど大きな出来事

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何気なく開けたタンスの奥からロープが出てきた時、
忘れ形見に出会ったような、言い様のない感覚に囚われた

『この辺が潮なんだよ。』

ロープにそう言われたような そんな気がした





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5メートル。

測らなくたって覚えている。自分で買ったのだから。
とっくの昔に家族に処分されたかと思ってた
折りたたみ式の脚立も別の部屋に置いてあった

遺書も遺影も常時パソコンに保存してあるから、
黙って印刷を完了した




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夜、永別のために料理店へ足を運んだ。
大学時代にずっと働いていた店で、
東京へ引っ越したのちも、帰省の度に顔を出してはご飯を食べさせてもらっていた。

最期までなんの恩返しも出来なかった自分が情けなく思いつつ、
店の扉を開けた

ほぼ、満席だ。

シェフが私に気付いて言った。
『家も携帯も電話通じなかったぞ、一体何があった?』
『いえ、体調不良です・・・』

実は、と言いかけたところで、シェフがさえぎるように言った。
『明日、昼、食べに来い。分かったな』
有無を言わさない感じだった。
ー私の内面が分かっているのだーすぐに判った。


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『あらっ、ふとしくんじゃない?!?!』

少し離れた席から大声が聞こえたのはその時だ。
見ると、私が働いていた頃からの常連さん夫婦だった。
声をかけてくれたのは奥さんらしい。

『どうしたのよ〜っ?!
 名古屋帰ってきたの?
 またここで働いてくれるの?』

『あっ、いえ、その・・・』

『ちょっとこっち来なさい!』
引っ張られるように席まで連れて行かれる私。
『で、またここで働いてくれるの?』

どう答えたらいいものか・・・考える前に言葉が出ていた
『家族が全員外国行っとるもんだで、
 私は留守番しとらなかんのです。それで・・・』
いつの間にか方言が入っていた

『なんか元気無さそうね?』
『いえいえ、気のせいです、私は元気いっぱいですよ』

シェフに体調不良と言ったばかりなのに、
今度は真逆の言葉を、努めて笑顔をして言ってみせた。

『もう〜っ、ふとしくん、ちょっと座ってきなさいよ!
 一緒に食べなさい!これ食べる?ね?』

腕をつかんで私を引っ張る奥さんを見かねたのか、
旦那さんが『まぁまぁ・・・σ(^_^;)』と止めに入ってくれた。
テーブルを見ると、かなりお酒を飲んだあとらしかった。

『お互い近所ですし、私は毎月名古屋に帰ってきています。
 必ずまた会えますので。大丈夫です』
深々と頭を下げ、シェフにも頭を下げて店をあとにした。



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天真爛漫というのは、ああいうお人のことを言うんだろうなぁー


私は死ぬ気でいて、既に総ての準備は終わっていて、
別れの挨拶に来たのであって、
でも、あの人はものの7秒くらいで私の"決死"をとめてしまった
しかも、無意識のうちに。


働いていた頃から、何故だかその方に好かれていた。
バレンタインにチョコレートをもらったこともあって
(私は義理チョコであろうがそういう経験はほとんど無い)。

それ自体は些細な出来事かもしれないけれど、
でも、うん、そうだよね。

少なくとも、生命を繋いでくれたあの方に次会うまでは、死んではダメだよね

なんてことを思いつつ、ゆっくり歩いた帰り道でした。
by futoshi84 | 2013-08-28 22:24 | その他