埋没するエチオピアの日々

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ブレーキ音に目が覚めた。バスに乗ってる他の乗客も気付いたようだ。

(またか・・・・)

内心嫌気が差す。バスのヘッドライトに二人の兵士が浮かび上がっていて、
手真似で降りるよう指示を出しているところだった。
無論、降りざるを得ない。誰もが黙って外へ出た。

10月とはいえ真夜中のエチオピアは幾分寒かった。
辺りは既に高地なのだろう、吐く息が白く寒気が身に凍みる。
兵士のうちの一人が無人になったバスに乗り込んで中の荷物検査を始めた。

どういうわけかエチオピアの検問はいやに入念だ。
乗客のかばんを丹念に調べる。そして調べた後も中身を元通り仕舞わない。
自分がエチオピアの検問に嫌悪を催した理由のひとつはそれだった。

その間にもう一人の兵士が乗客一人一人の身分証を確認する。
エチオピア人は画用紙にアムハラ語が書き込まれたカードを皆持っていて、どうやらそれが身分証らしかった。

自分の番がやってきた。

『パスポートを出すように』
まだ若い(ひょっとしたら同い年くらいかもしれない)坊主頭の兵士がそう言った。
何気なく自動小銃をぶら下げているがその銃口はこっちを向いている。

自分のパスポートはいつもジーンズと下着の間に入れていて、出すのにひどく手間が要った。
しかも他の乗客に隠し場所を見られるのは後々良くない。
だから代わりに財布に挟んでいる国際学生証を見せた。

兵士が文句を言うかというと、そうではない。
チラリと見ただけですぐ返してくれた。要するに型だけのものらしい。
実はその学生証の期限はとっくに切れているのだが、それにすら気付いた様子は無かった。

立ち去ろうとしたところに兵士から
『お前は何人か』と聞かれた。妙に感情の無い声だった。

この一事だけでも、この検問がどれほど馬鹿げているかが分かる。
期限の切れた身分証でも因縁を付けられず、
さらに言えばこの兵士は身分証の国籍欄すら見ていないということがこの一言で分かる。

『日本人ですよ』自分は嫌々そう言った。いい加減寒い。寒いから早くバスに戻りたかった。
しかも度々検問に合うせいでバスはいつも遅れる。検問にあえば大体20分くらいは足止めを食らう。それにも腹が立つ。


馬鹿な話だよ。・・・・・自分は繰り返しそう思った。
国内は不安定だった。エチオピアはソマリアとエリトリアを相手に戦争を続けている。
そのせいで隣国ソマリアから次々とゲリラが進入し(この付近にアルカイダも潜入している、と米国は指摘していた)、その対策で検問が必要になる。
検問を設ければ前線に送る兵士が少なくなり、これが更なる悪循環を生む。
いつまでこんなことを続けるつもりだろうか?


『ハラールに行くんだったな』

身分証と乗車券を見た兵士はそう言った。

『あそこはソマリアにも程近い。気を付けろ』
そんなことは言われるまでもなかったものの一応頷いた。


バスの中では相変わらず兵士が荷物を検分している。

そのペンライトだけが地上の光の全てだった。
他に光源というのは何も無い。
バスの中だけが、ただただ胡散臭げに光を放っている。



いや・・・・もう一つ光源はあるかもしれない。
あるいは無数と言えるほどに。


空にはひしめくような星空が広がっていた。


自分がアフリカで見つけた素朴な発見が一つあった。
それは夜でも地平線が分かるということだ。


星は地平線のすぐ側までびっしりと空を埋め尽くしていた。
その数は数えることすら不遜なほどで、360度のパノラマというのはこういうことを言うのだろう。
路肩に腰を下ろし、何分も飽くことなく星空を眺めた。



今、何時だろう・・・・・。


懐中時計を取り出そうと思ったが、無意味だと気付いてすぐやめた。

エチオピアの夜が更ける。
ここがどこかも、そして何時なのかも分からないまま佇む自分。
こうしてじっとしていると、自分が風景の中に溶け込んでいくような気分になる。
いや、ひょっとしてもう溶け込んでいるのかも。
そう思えば検問もあながち悪いことばかりではないのかもしれない。

検問はまだまだ終わりそうにも無い。
あくびを噛み殺しながら自分はなおも夜空を見続けた。




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エチオピアというのは不思議な国です。
アフリカでは本当に数少ない、植民地化を免れた国です。
(一時イタリアに占領されたこともありましたが)

キリスト教が社会にかなり浸透している、というのも特徴です。
それも植民地化にやってきた白人が持ち込んだものではなく、
いわゆる原始キリスト教という、昔々からずっと続いているものです。

食べ物も言葉も顔付きも。
東アフリカと接しているのに、それとは全く異なる。

東アフリカからやってきた自分にとって、それはそれは不思議な国でした。
by futoshi84 | 2010-12-14 18:04 |